国境を越えた交流誓い合う

ハーグ国際平和市民会議に参加して

世界中の平和活動家・運動団体が集まって、核兵器廃絶や軍縮、紛争予防などをテーマに討議した国際平和市民会議「ハーグ平和アピール1999」が5月11日から15日まで、オランダ・ハーグ市で開かれました。 400の分科会に約100カ国、1万人近い参加者という今世紀最大規模の非政府組織(NGO)会議に、「アボリション2000」団体のブースを借り、また分科会でも「顔の見える対話」を求めて、 広島に来たくても来れない人たちのために、完成したばかりのホームページ「ヒロシマの心を伝える会」をノートパソコンで紹介しました。

印象深かった「反核デモ行進」

特に印象に残っているのは、ある部会の参加者で即席で行われた反核デモ行進です。
 「米国による原爆投下は決して米国民が誇るべき歴史ではない」という意識を米国に啓蒙する事を目的としている米国の団体(参加者少人数)や、広島・長崎の被爆者、在日韓国・朝鮮人、元米軍兵士や南太平洋での核実験による被曝(ひばく)者なども発言者として参加していました。そこでは米国をはじめとする大国の覇権主義、日本のアジアへの謝罪、戦争・核被害者への補償等の問題を、さまざまな角度から取り上げ、討論しました。
 この部会には、旧ユーゴスラビアの青年たちも参加していたのですが、「核兵器とはこんなに恐ろしいものなのか。米国をはじめとするNATOはこの恐ろしさを知っていながら、将来的には核兵器の使用可能性さえある空爆を行っている。何とかしなければならない」との彼らの呼びかけで、会議場から平和宮(国際司法裁判所のある建物)までをその場にいた人たちで、即席の反核デモ行進を行ったのです。
 そのとき私も、NATOの空爆の継続、核兵器の使用をたいへん心配していたため、即座に参加したかったのですが、時間の関係で参加できませんでした。しかし16日の大行進には参加しました。
 この反核デモ行進はまさに、広島・長崎、米国(南太平洋核実験被曝者も含む)、旧ユーゴスラビアの合同企画であったと思います。

「日本人が忘れてはならない歴史」

 また、第二次世界大戦中、日本のインドネシア占領下でたくさんのオランダ人も日本の強制収容所に入れられていたという日本のインドネシア支配という歴史的理由により、(当時インドネシアはオランダの植民地)オランダの地元で、被爆体験を話すことは容易ではありませんでした。しかし、現地にいる日本人の努力で4回の会合を持つことができました。
 「日本人が絶対に忘れてはいけない、また繰り返してはならない歴史がある」。人間自らが反省し、未来のために愛と理解を持って、国境を越えた交流やお互いにあらゆる努力をしなければならないということを話し合いました。
 最後の日、インドネシア元従軍慰安婦との間に生まれたサクラ会の人たち30人とハーグ郊外にある日本庭園で交流しました。彼らはたいへん日本を恋しがり、親に会って自分がどうして生まれたのか真相を知りたがっていました。

「心の痛み」分かち合う

国家の枠を超えて、原爆の投下は決して正当化できるものではないということを理解してもらうことは、とても困難でした。
 ブースで出会った韓国女性たちは、「私たちも日本帝国主義の犠牲者だ。しかし、あなたの話を聞いて、今はその行為を心の痛みとして感じられる」「歴史を語っていかなければならない。もっと知らなければならない」「遠く離れた日本から来て下さった松原さんが最初で最後の被爆体験者になるだろう」「強い女性だ」などと話していました。
 私はその女性たちに私たちのホームページを見せ、「今もなお、広島になぜ1万人の韓国被爆者がいるのか」をヒロシマを学びに来る日本の修学旅行生に語っていることを伝えました。
 「アボリション2000」年次総会は、ハーグの最終日の5月15日から3日間にわたって開かれました。そしてそこでは、2000年の3月1日から8日までの1週間を地球行動週間とし、来年5月NYで開かれる予定のNPT再検討会議に向け、各国の政府に対して、政策要求を出していこうという合意が取り付けられました。
 西欧のまったく異なる歴史や文化、哲学を理解し、私たちの声を伝えるにはまず英語。石にかじりつても英語を学ばねばならないと強く感じました。英語理解力のなさに苦しんだ会議でもありました。
 これから平和の心、ヒロシマの心を伝えるために英語の力をつけることが大切だと思い、あらためて学ぶ決心をしました。

<ハーグ平和アピール1999>

 今年5月にオランダのハーグで開かれた非政府組織(NGO)主催の「平和市民会議」。約100カ国から8000人の市民が集い、4日間論議を交わした。
核兵器禁止条約の交渉完結などを求める「21世紀の平和と正義に向けたハーグ・アジェンダ(提言)」を採択。5年間にわたり毎年5%ずつの軍事費削減▽核兵器禁止条約の5年以内の交渉完了と締結▽30万人以上にのぼる18歳以下の少年兵の従軍禁止▽国連や国際司法裁判所の改革と拡充など 50項目近い提言が盛られた。また、核兵器の今世紀中の廃絶を目指す「アボリション2000」の取り組みが、目標年限が過ぎようとも有効であり、世界のNGOがさらに連携を深めることを確認した。
 広島・長崎から被爆者も参加し、被爆証言や原爆写真展を開催。「日本デー」では、秋葉広島市長や大田前沖縄県知事らがスピーチをした。